「TENET」予告編では堂々とノーランの過去作のカットが入る。それらに意味を置きにいかざるを得ない。
「大衆に隠されたミッション」
「けっして強者ではない立場」
「時間を操る演出」
はノーランの映画の最低限のコードであり、予告編からそれが守られていることと、やはり複雑な話であることを瞬時に把握する。第二次世界大戦の一幕を描いたダンケルクの次に第三次世界大戦を防ぐ話であることも相まって、わざとらしさの渋滞を感じたのだ。もしかして今までの物語のエッセンスを凝縮したものではないか?
これはやはり予告編のマジックだろうか。本編を継ぎはぎしたものを見たときの一方的な興奮であろうか。ノーランが時間を操ることをうっかり忘れた所以のものか。
複雑な話を提示したあとのごく純粋なラストをまっているぼく自身もわざとらしい。結局、非情な現実の先へゆく孤高の物語だというような期待を非情なストーリーによって裏切られに映画館へ通うのだ。コロナが広がって密閉空間が怖くなった今も昔もいるだろう、黙りゆく英雄を見たくてゆくのだ。素晴らしいあの人のことを称えられない自分の日常を鼓舞しにゆくのだ。
TENET、もう辿りついていてもあまりに遠い。時間は遡らない。